はじめに:なぜ中小企業で情報持ち出しが多発するのか?
情報漏洩の約8割が内部起因
企業にとって、顧客情報、営業秘密、技術情報といった重要なデータは、事業の生命線とも言える資産です。これらの情報が外部に漏洩することは、企業の存続を揺るがす重大な事態に直結します。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」など、複数の調査結果において、情報漏洩の原因として「内部不正」や「人的ミス」といった内部起因の割合が高いことが繰り返し指摘されています(10年連続で「10大脅威」にランクイン)。
具体的な割合は調査機関によって変動しますが、例えば、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が発表した過去の調査データでは、情報漏洩の原因の約8割が「管理ミス」や「紛失・置き忘れ」、「誤操作」といった内部要因(人的要因)に起因しているとされています(出典:日本ネットワークセキュリティ協会「個人情報漏えいインシデントの変遷と挑戦」)。
中小企業においては、セキュリティ対策への投資が限られること、特定の従業員に業務が集中し、情報へのアクセス権限が広範になりがちなこと、そして従業員へのセキュリティ教育が不十分であることなどが、情報持ち出しが多発する背景として挙げられます。
企業の信頼と存続に関わる重大リスク
情報持ち出しは、単なるデータの消失以上の深刻な影響を企業にもたらします。顧客情報が漏洩すれば、企業の信頼は地に落ち、顧客離れや取引関係の解消に直結します。これは、長年にわたって築き上げてきた企業の評判を一瞬にして破壊するものです。
また、営業秘密や技術情報が競合他社に渡れば、企業の競争優位性は失われ、売上減少や事業の縮小を余儀なくされる可能性もあります。個人情報保護法改正により、情報漏洩が発生した場合の企業への責任はより厳格化されており、多額の損害賠償請求や行政処分を受けるリスクも高まっています。
最悪の場合、事業の継続が困難となり、倒産に追い込まれるケースも存在します。情報持ち出しは、企業の存続そのものに関わる、回避すべき重大なリスクなのです。
本記事でわかること:情報持ち出しの全体像と具体的な対策
本記事では、中小企業が情報持ち出しのリスクを認識し、在職中および退職時の両面から、具体的な防止策を講じるための実践的な方法を解説します。アクセス権限の管理、デバイス利用制限といった予防策から、退職時の最終チェックリスト、そして万が一の際に備えるデジタル証拠保全の重要性まで、情報持ち出し対策の全体像を網羅的にご紹介します。
今すぐできる対策リストを活用し、貴社の情報資産を守る強固な体制を築きましょう。
在職中の情報持ち出しを防ぐための予防策
従業員が在職中に情報を持ち出す行為を防ぐためには、技術的な対策と、社内ルールの整備、そして従業員への教育を組み合わせた多層的なアプローチが効果的です。
アクセス権限の適切な管理(最小権限の原則)
従業員への情報アクセス権限は、「最小権限の原則」に基づいて厳格に管理することが重要です。これは、従業員が自身の業務を遂行するために必要最小限のデータにのみアクセスできるよう設定するという考え方です。
職務に応じた権限設定
部署や役職、業務内容に応じて、アクセスできる情報、ファイル、システムを細かく制限します。例えば、経理担当者以外は経理データにアクセスできないようにする、特定のプロジェクトメンバー以外はプロジェクト関連の機密情報にアクセスできないようにするなどです。
定期的な見直しと更新
従業員の異動や退職、担当業務の変更があった際には、速やかにアクセス権限の削除・変更を行います。また、定期的に(少なくとも年1回は)全従業員のアクセス権限を見直し、不要な権限が付与されていないか、過剰な権限がないかを確認し、適正な状態に保つことが不可欠です。
社内ネットワークからのUSBデバイス利用制限
USBメモリや外付けHDDなどの外部記憶媒体は、手軽に大量の情報を持ち出せるため、情報漏洩の主要な経路となります。
利用の禁止または制限:原則として、社内ネットワークに接続されたPCからのUSBデバイス利用を禁止することが最も効果的です。業務上やむを得ず使用する場合は、上長の許可制にする、特定の暗号化されたUSBメモリのみを許可する、特定のPCからのみ利用を許可するといった厳格なルールを設けます。
デバイス制御ソフトの導入
IT資産管理ツールやデバイス制御機能を持つセキュリティソフトを導入することで、未許可のUSBデバイスの接続をブロックしたり、接続履歴やファイルコピー履歴をログとして記録したりすることが可能になります。これにより、物理的な情報持ち出しのリスクを技術的に抑制できます。
個人クラウドストレージの利用制限と監視
Dropbox、Google Drive、OneDriveなどの個人クラウドストレージサービスは、従業員が手軽にファイルを共有できる便利なツールですが、情報持ち出しのリスクを増大させます。
利用の禁止と代替策の提示
社内規定で個人クラウドストレージの業務利用を禁止します。その代わりに、セキュリティ対策が施された企業の管理下にある業務用ファイル共有サービスやストレージ(例:社内NAS、セキュリティ機能付きのビジネス向けクラウドストレージ)を提供し、従業員が業務ファイルを安全に共有できる環境を整備することが重要です。
アクセスログの監視
ネットワークの出口(プロキシサーバーなど)で、従業員が個人クラウドストレージサービスにアクセスしている履歴を監視することで、ルール違反を検知し、適切な指導や対応を行うことができます。
持ち出しルールと罰則の明確化
技術的な対策だけでなく、社内ルールの明確化と周知徹底、そして違反に対する厳正な対応が、従業員への抑止力となります。
情報持ち出しに関する規定の策定
どのような情報が機密情報に該当するのか、どのような方法での情報持ち出しが許可されるのか(原則禁止、例外的に承認制など)、そしてどのような行為が情報持ち出し違反となるのかを具体的に定めた社内規定を策定します。
罰則規定の明確化と周知
情報持ち出しに関する規定に違反した場合の懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇など)や法的措置の可能性を明確に定め、就業規則に明記し、全従業員に周知徹底します。入社時のオリエンテーションや定期的なセキュリティ研修で繰り返し説明し、違反行為が発覚した際には、ルールに基づき厳正に対処する姿勢を示すことが、他の従業員への強い抑止力となります。
退職時の情報持ち出しを防ぐ最終チェックリスト
退職する従業員による情報持ち出しは、特に悪質性が高く、企業にとって深刻な被害をもたらす可能性があります。退職プロセスの中で、以下に示す最終チェックリストを確実に実行することが、情報漏洩リスクを最小限に抑える上で不可欠です。
退職者PCのデータ保全と確認
退職者が使用していたPCには、業務上の重要なデータや機密情報が残されている可能性があります。
データ保全の実施
退職日の前に、対象PCのハードディスクイメージを完全に取得するなど、全データの保全を行います。これは、万が一情報持ち出しが疑われる場合に、後でフォレンジック調査を行うための重要なステップです。安易にPCを初期化したり、他の従業員に貸与したりすることは避けるべきです。
不正操作の履歴確認
保全したデータや、PC操作ログ、ファイルアクセス履歴などを用いて、退職直前の不審なアクセスや大量のデータコピー、削除が行われていないかを確認します。特に、会社の機密情報が保存されているフォルダへのアクセス履歴や、外部ストレージへのコピー履歴には細心の注意を払って確認します。
アカウントの速やかな停止・削除
退職者が社内システムや外部サービスにアクセスできる状態を残してしまうと、退職後も不正アクセスによる情報漏洩のリスクが残ります。
全アカウントの停止
退職日には、社内ネットワークへのログインアカウント、業務で使用していたメールアカウント、グループウェア、クラウドサービス(社内共有、業務委託先との共有含む)、各種業務システム、SaaS、VPNなどの全アカウントを速やかに停止または削除します。
パスワードの変更
共有アカウントや、退職者が関与していたプロジェクトのアカウントなど、必要に応じて関連するパスワードを一斉に変更することで、退職後の不正アクセスリスクを排除します。
貸与物の確実な回収とデータ消去
会社から貸与されていた物理的なデバイスや書類からの情報漏洩を防ぎます。
物理的貸与物の回収
社用PC、社用スマートフォン、タブレット端末、USBメモリ、外付けHDD、社用IDカード、名刺、機密書類、鍵など、会社から貸与されていた全ての物理的な物品を確実に回収します。回収リストを作成し、一つずつチェックしながら回収作業を進めます。
データ消去の徹底
回収したPCやスマートフォンなどの記憶媒体に残るデータは、専用のデータ消去ソフトウェアを用いて、復元不可能な方法で完全に消去します。単なるファイルの削除やフォーマットではデータが復元される可能性があるため、専門的な方法で消去することが不可欠です。
NDA(秘密保持契約)の再確認と法的措置
退職後も、元従業員に秘密保持義務があることを再確認させることが重要です。
秘密保持契約の確認
退職する従業員が、入社時に締結したNDA(秘密保持契約)の内容を再度確認し、退職後も企業秘密の保持義務があることを書面または口頭で明確に伝えます。必要であれば、退職時に改めて秘密保持に関する誓約書を締結させることも検討します。
法的措置の可能性の提示
万が一、情報持ち出しが発覚し、企業に損害が発生した場合には、法的措置(損害賠償請求や刑事告訴)を検討する可能性があることを明確に伝えることで、不正行為への抑止力となります。
【重要】デジタル証拠保全の必要性
情報持ち出しが疑われる、あるいは実際に発生した場合、その原因究明や法的措置のためには、「デジタル証拠」が極めて重要な役割を果たします。
データ持ち出しが疑われる際の初動対応
情報持ち出しの疑いが生じた場合、最も重要なのは迅速かつ適切な初動対応です。
対象デバイスのネットワーク隔離
疑わしいPCやサーバーを速やかに社内ネットワークから物理的または論理的に隔離し、さらなる情報流出や証拠隠滅を防ぎます。
電源を切らずに保全
PCの電源を安易に切らず、揮発性メモリ上の情報(実行中のプロセス、ネットワーク接続情報など)を失わないように注意します。可能であれば、専門家によるメモリダンプやディスクイメージの取得を優先します。
証拠保全ツールや専門家の活用
自己流での証拠保全は、データの改ざんや破損を招くリスクがあります。専門的なデジタルフォレンジックツールや、フォレンジック専門家の協力を得て、法的有効性のある形でデータを保全することが不可欠です。
改ざんされない証拠の収集方法
デジタルデータは、容易に改ざんできる特性を持つため、その証拠能力を担保する収集方法が求められます。
ハッシュ値の取得
証拠として保全するデータ(ハードディスクイメージや個別のファイルなど)に対して、ハッシュ値(データの「指紋」のようなもの)を計算し、記録します。これにより、後日データが改ざんされていないことを証明できます。
タイムスタンプの記録
データの取得日時を正確に記録し、証拠保全のプロセスを明確にします。
監査証跡の確保
誰が、いつ、どのようにして証拠を収集・保全したのかという一連の記録(監査証跡)を残すことで、証拠の信頼性を高めます。
法的措置を検討する上での重要性
従業員による情報持ち出しが発覚し、企業に損害が生じた場合、損害賠償請求や刑事告訴などの法的措置を検討することになります。この際、上記のような適切な方法で収集・保全されたデジタル証拠は、法廷において客観的な事実を証明する強力な根拠となります。
証拠の不備は、訴訟の進行を不利にしたり、請求が棄却されたりする原因となるため、法的措置を視野に入れるのであれば、初期段階からの証拠保全は絶対に欠かせません。弁護士やフォレンジック専門家と連携し、法的に有効な証拠を確保することが成功の鍵です。
EASY Forensicsで情報持ち出し対策を強化
中小企業において、専門のIT部門やセキュリティ担当者が不在の場合でも、情報持ち出し対策を効果的に実施し、万が一の事態に備えるためのツールとして「EASY Forensics」が有効です。
退職者PCデータを「簡単」に保全・調査
EASY Forensicsは、退職する従業員が使用していたPCのデータを、専門知識がなくても容易に保全できる機能を提供します。クリック操作でPCの全データイメージを安全に取得し、後から必要な情報を調査することが可能です。
これにより、退職者による情報持ち出しの疑いがある場合でも、迅速かつ確実に証拠を保全し、その後の原因究明や対応に繋げることができます。高価なフォレンジックツールや外部の専門業者に依頼するコストを抑えながら、自社で初期段階の調査を行う体制を構築できます。
PC操作ログやファイルアクセス履歴で不審な行動を検知
在職中の従業員による情報持ち出しの兆候を早期に捉えるために、EASY Forensicsは、従業員のPCにおける詳細な操作ログ(いつ、どのアプリケーションを起動したか、どのウェブサイトを閲覧したか、どのUSBデバイスを接続したかなど)や、ファイルアクセス履歴(どのファイルを開いたか、コピーしたか、削除したか、外部に送信したかなど)を自動で収集・記録します。
これらのログデータを視覚的に分かりやすく表示し、不審な行動パターンや異常なファイルアクセスを自動で検知する機能も備えているため、セキュリティ担当者がいない企業でも、情報持ち出しの兆候を効率的に見抜き、未然防止や早期対応に繋げることが可能です。
活用シーン・導入メリット
退職者の情報持ち出し調査
退職直前のPC操作履歴やファイルコピー履歴を詳細に確認し、機密情報の持ち出しがなかったかを迅速に調査。
在職中の不正行為監視
特定の従業員のPC操作が不審な場合に、リアルタイムでログを監視し、情報持ち出しの兆候を早期に検知。
内部監査の強化
定期的にPC操作ログを監査し、社内規定違反や不適切な情報利用がないかを確認することで、内部統制を強化。
低コストでの導入・運用
高額な専門ツールや外部業者に依頼することなく、中小企業でも手の届くコストで情報持ち出し対策を強化できる。
専門知識不要の簡単操作
IT専門家でなくても直感的に扱えるインターフェースで、日々の運用負担を軽減。
まとめ:情報資産を守る企業文化の醸成
技術的対策と従業員教育の両輪
企業の情報資産を守るためには、EASY Forensicsのような技術的な対策を導入し、不正の兆候を検知できる体制を構築するだけでなく、従業員一人ひとりの情報セキュリティ意識を高める教育も同時に推進する「両輪」のアプローチが不可欠です。
社内規定の明確化、定期的な研修の実施、そしてセキュリティ意識の高い企業文化の醸成を通じて、従業員が「情報を持ち出さない」「情報漏洩のリスクを理解している」という共通認識を持つことが、最も強固な防御壁となります。
情報持ち出し対策は、一度行えば終わりではなく、常に変化する脅威に対応するために、継続的に見直し、改善していく長期的な取り組みです。
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