はじめに:データ消失・削除…その時どうする?
焦らず、冷静な初動が復元の鍵
業務中に大切なファイルが見つからない、フォルダが消えている、あるいはPCが起動しなくなってデータにアクセスできなくなった――。
「データが消えた!」という事態は、企業にとって非常に大きな問題であり、多くの担当者をパニックに陥らせるでしょう。しかし、このような緊急事態に直面したときこそ、焦らず冷静な初動対応が何よりも重要になります。間違った操作や対処をしてしまうと、データの復元が不可能になったり、不正の証拠を失ってしまったりするリスクがあるためです。
まずは落ち着いて状況を把握し、適切な手順を踏むことで、データの復旧可能性を高め、潜在的な問題を特定する第一歩を踏み出すことができます。
誤操作? 故障? それとも不正?
データが消える原因は多岐にわたります。
最も一般的なのは、従業員による誤操作(うっかり削除してしまったなど)や、PCやストレージデバイスの故障(ハードディスクの物理的破損、システムエラーなど)です。
しかし、中にはマルウェア感染によるデータの破壊、あるいは従業員による故意のデータ消去といった、悪意を持った不正行為が原因である可能性も潜んでいます。原因によって取るべき対応は大きく異なります。
この記事では、それぞれの可能性に応じたデータ復元の基礎知識から、特に「不正によるデータ消去」が疑われる場合の調査ポイントまで、詳細に解説していきます。
データ復元の基礎知識と種類
データが消えた場合でも、状況によっては比較的容易に復元できる可能性があります。まずは、基本的な復元方法を確認しましょう。
ゴミ箱からの復元
WindowsやmacOSのOSには「ゴミ箱」(macOSでは「ゴミ箱」)機能が備わっています。これは、ファイルを削除した際に一時的に保管される場所です。
特徴
ファイルを削除しても、すぐに完全に消去されるわけではなく、まずはゴミ箱に移動します。ゴミ箱から元に戻すことで、簡単に復元が可能です。
復元手順
ゴミ箱を開き、復元したいファイルを選択して右クリック(Macの場合はControlキーを押しながらクリック)し、「元に戻す」や「“〇〇”を戻す」を選択します。
注意点
ゴミ箱を空にしてしまった場合や、ネットワークドライブ上のファイルを削除した場合(多くはゴミ箱を経由しない)、この方法では復元できません。
バックアップからの復元
最も確実なデータ復元方法が、バックアップからの復元です。企業においては、日々の業務で生成されるデータを定期的にバックアップする体制を構築していることが理想です。
特徴
外部ストレージ(外付けHDD、NAS)、クラウドストレージ、テープなど、別媒体に保存されたデータのコピーから復元します。
復元手順
企業が採用しているバックアップシステムやサービス(例:Windows Server Backup、Veeam Backup & Replication、Google Workspaceの共有ドライブバックアップ、Microsoft 365のデータ復元機能など)の手順に従って、必要なデータを復元します。
注意点
バックアップが最新でなかった場合、復元されるデータは古いものになります。また、バックアップデータ自体が破損している可能性もあります。定期的なバックアップと、そのバックアップデータの整合性チェックが重要です。
ファイル履歴やシステムの復元ポイント
Windowsには、ファイル履歴やシステムの復元ポイントといった機能が標準で備わっており、これらを活用してデータを復元できる場合があります。
ファイル履歴(Windows)
ユーザーのドキュメント、ピクチャ、ビデオなどのライブラリにあるファイルのコピーを定期的に自動で保存する機能です。これにより、誤ってファイルを変更したり削除したりした場合でも、以前のバージョンに戻すことができます。
システムの復元ポイント(Windows)
システムファイルの変更や新しいソフトウェアのインストールなど、システムに大きな変更が加えられる前に、システムの特定時点の状態を保存する機能です。これにより、システムの問題が発生した場合に、以前の安定した状態に戻すことができますが、個別のデータファイルが復元されるわけではありません。
復元手順
各機能の設定状況を確認し、手順に従って復元を試みます。これらの機能が有効になっていない場合、復元はできません。
専門業者によるデータ復元
上記の基本的な方法でデータが復元できない場合や、物理的な障害が原因でデータにアクセスできない場合は、データ復元専門業者に依頼することを検討します。
特徴
専門業者は、高度な技術や特殊な設備(クリーンルームなど)を用いて、論理障害(ファイルシステムの破損など)や物理障害(HDDのプラッタ損傷など)が発生したストレージデバイスからデータを復元します。
復元手順
業者に連絡を取り、状況を説明し、診断と見積もりを受けます。デバイスを業者に送付し、復元作業を依頼します。
注意点
復元には費用がかかります。また、すべてのデータが100%復元されるわけではありません。専門業者に依頼する前に、自分で安易に操作すると、かえって復元が困難になるリスクがあるため、通電を中止するなどの初動が重要です。
不正による「データ消去」が疑われる場合
データが消えた原因が、単なる誤操作や故障ではなく、従業員による故意のデータ消去であると疑われる場合、その対応は大きく異なります。これは、情報漏洩や隠蔽工作の一環である可能性があり、その場合は単なるデータ復元に留まらず、不正の真相究明が求められます。
故意のデータ消去の手口と痕跡
不正なデータ消去を行う従業員は、痕跡を残さないように様々な手口を使います。
単純な削除(ゴミ箱を空にする)
最も基本的な手口ですが、多くのOSでは「ゴミ箱を空にする」操作をしても、データの記録領域がすぐに上書きされるわけではないため、専用のツールを使えば復元できる可能性があります。
完全消去ツールやコマンドの使用
データを完全に上書きする「完全消去ツール」を使用したり、特定のコマンド(例: Linuxの`shred`コマンドなど)を用いてデータを復元不可能にしたりする手口です。このような操作が行われた場合、データの復元は極めて困難になります。
物理的破壊
ハードディスクを物理的に破壊する(ハンマーで叩く、ドリルで穴を開けるなど)手口です。この場合、データの復元は不可能になります。
痕跡
故意のデータ消去が行われた場合でも、PCのイベントログ、アプリケーションの起動履歴、インターネット閲覧履歴(データ消去ツールのダウンロード履歴など)、USBデバイス接続履歴などに何らかの痕跡が残されていることがあります。例えば、消去ツールをダウンロードした記録、特定のフォルダを短時間で複数回開閉した記録、不自然な時間に大量のデータが削除されたことを示すログなどが該当します。
データ復元後の「消去」の証拠を見つける方法
データが復元できたとしても、それが誰によって、どのような意図で消去されたのかを特定することは、不正調査において非常に重要です。
ファイル属性の確認
復元されたファイルの「最終アクセス日時」「作成日時」「更新日時」といったタイムスタンプを確認することで、不正な操作が行われたおおよその時間を特定できる場合があります。ただし、これらのタイムスタンプは改ざんされる可能性もあります。
ユーザーアカウントの特定
どのユーザーアカウントでデータが削除されたのかを特定し、そのアカウントの所有者である従業員への疑いを深める手がかりとします。
システムログの分析
PCやサーバーのシステムログには、ファイル削除、プログラムの実行、ログイン/ログオフ、USBデバイスの接続などの活動履歴が記録されています。これらのログを詳細に分析することで、不正な操作が行われた日時、実行されたプログラム、関与したユーザーなどの情報を特定できる可能性があります。
ログ分析の重要性
ログ分析は、データ消去に限らず、あらゆる不正調査において中核をなす要素です。
操作の可視化
誰が、いつ、どこで、何を操作したのかを時系列で可視化します。これにより、不審な操作やパターンを浮き彫りにします。
関連性の特定
複数のログデータ(例えば、PC操作ログとネットワークアクセスログ)を組み合わせることで、一連の不正行為の流れを特定し、単独では見えなかった関連性を発見できることがあります。
証拠の提供
ログデータは、不正行為の具体的な証拠として、法的措置を検討する際の重要な裏付けとなります。
デジタルフォレンジックで真相を究明
故意のデータ消去が疑われる場合や、通常のデータ復元では原因が特定できない複雑な事案の場合、デジタルフォレンジックという専門的な調査手法が不可欠となります。
通常のデータ復元との違い
通常のデータ復元は、誤って削除したり、システム障害で失われたりしたデータを「元に戻す」ことを主目的とします。多くの場合、データの利用可能性(可用性)を回復することがゴールです。
一方、デジタルフォレンジックは、単にデータを復元するだけでなく、デジタルデータに残された痕跡から「何が起こったのか」「誰が関与したのか」「どのように行われたのか」といった真相を究明し、その過程で得られた情報を法的な証拠として保全することを目的とします。
例えば、削除されたファイルの復元だけでなく、そのファイルが削除された日時、削除したユーザー、使用された削除ツール、さらに削除された後のPCの操作履歴などを詳細に解析します。
消去されたデータから何が分かるのか?
完全に消去されたように見えるデータであっても、デジタルフォレンジックの手法を用いれば、以下のような情報を特定できる可能性があります。
削除されたファイルの痕跡
ファイルシステム上に残された痕跡(ファイル名、サイズ、タイムスタンプなど)や、ディスクの未使用領域に残された断片的なデータから、削除されたファイルの存在や内容を推測・復元できることがあります。
データ消去ツールの使用履歴
データの完全消去に用いられたツールがPCにインストールされた履歴、起動された履歴、使用されたパラメータなどを特定し、誰が、いつ、どのような方法で消去を試みたのかを明らかにします。
関連するPC操作ログ
データが消去される前後のPC操作ログ(アプリケーションの起動、ウェブサイト閲覧、外部デバイス接続など)を分析することで、消去の動機や背景にある一連の行動を把握できる場合があります。例えば、競合他社のウェブサイトを閲覧した直後に機密情報が削除されたなどの関連性が見つかることもあります。
改ざんされたタイムスタンプ
ファイルの作成日時、更新日時、最終アクセス日時などのタイムスタンプが不自然に改ざんされている場合、その改ざんの痕跡から不正の意図を読み取ることが可能です。
法的な証拠能力を持たせるために
デジタルフォレンジックによって得られた調査結果を、裁判や社内懲戒処分などの法的な場面で有効な証拠とするためには、以下の要素が不可欠です。
証拠の保全性
調査対象のデータが、調査プロセス中に改ざんされていないこと、破損していないことを科学的に証明できる状態であること。ハッシュ値の取得や、証拠の連鎖(Chain of Custody)の厳密な記録が求められます。
再現性
調査の手順や方法が標準化されており、同じ手順を踏めば誰でも同じ結果が得られる再現性があること。
専門性
調査を行う者が、デジタルフォレンジックに関する専門的な知識と技術を有していること。
客観性
調査結果が特定の意図に沿って解釈されたものではなく、客観的な事実に基づいて導き出されたものであること。
これらの要件を満たすためには、自社で対応するだけでなく、デジタルフォレンジックの専門業者に依頼することを検討すべきです。専門業者は、これらの要件を満たす調査手法と設備、そして法的知識を有しています。
EASY Forensicsで「消されたデータ」の痕跡を調査
中小企業において、専門のIT部門やフォレンジックの知識を持つ担当者がいない場合でも、故意に消されたデータの痕跡を効率的に調査し、不正の真相究明を支援するためのツールとして「EASY Forensics」が有効です。
専門知識不要でPC内の痕跡を収集
EASY Forensicsは、デジタルフォレンジックの専門知識がなくても、PC内の重要な痕跡情報(操作ログ、削除されたファイルの痕跡、ウェブ閲覧履歴など)を簡単に収集できる機能を提供します。
複雑なコマンド入力や専門的なツールの操作は不要で、直感的なインターフェースを通じて必要なデータを効率的に取得できます。これにより、IT担当者がいない中小企業でも、いざという時に自社で初動調査を行い、迅速な対応を開始することが可能になります。
削除されたファイルの復元支援と、アクセス履歴の特定
完全に消去されたように見えるファイルでも、EASY Forensicsはディスク上の削除されたファイルの痕跡を検出し、その復元を支援します。さらに、そのファイルが削除される前のアクセス履歴(誰が、いつ、どのようにアクセスしたか)や、削除に至るまでのPC操作ログ(どのようなアプリケーションが起動されていたか、ウェブサイト閲覧履歴など)を詳細に特定することができます。
これにより、単にファイルを復元するだけでなく、「誰が」「いつ」「何を」「どのように」削除したのかという、不正の真相に迫る情報を得ることができます。
実際に調査できること・できないこと
調査できること
- PCの起動履歴、シャットダウン履歴、ログイン・ログオフ履歴の特定。
- 特定のアプリケーションの起動履歴とその利用時間。
- ウェブブラウザの閲覧履歴、ダウンロード履歴、フォーム入力履歴。
- USBメモリや外付けHDDなどの外部デバイスの接続履歴。
- ファイルの作成、変更、削除、コピー、移動といった操作履歴(ファイルアクセスログ)。
- 削除されたファイルの痕跡検出し、復元を支援。
- 特定のキーワードを含むファイルの検索(例:個人情報、顧客リストなど)。
- 不審な操作が行われたユーザーアカウントの特定。
調査できないこと
- ハードディスクが物理的に破損している場合(ただし、データ復元専門業者への依頼は支援可能)。
- データが軍事レベルで完全に上書き消去された場合(一部痕跡は残る可能性もあるが、データそのものの復元は困難)。
- 対象PCやデータが長期間利用され、関連するログやデータ痕跡が上書きされてしまった場合。
まとめ:予防と迅速な対応が会社を守る
定期的なバックアップの徹底
データ消失のほとんどは、適切なバックアップ体制があれば防ぐことができます。定期的なデータバックアップは、単なる復元手段ではなく、事業継続性を確保するための最も基本的なリスクヘッジです。
重要なデータは、少なくとも毎日、あるいはリアルタイムでバックアップを取り、複数の場所に分散して保管(クラウド、外付けHDDなど)する「3-2-1ルール」(データ3コピー、2種類の媒体、1つはオフサイト)などを参考に、徹底したバックアップ運用を確立しましょう。
また、バックアップデータが正常に復元できるかどうかのテストも定期的に実施することが不可欠です。
不正を許さない体制づくり
故意のデータ消去や不正行為は、企業の根幹を揺るがす重大な問題です。これを防ぐためには、技術的な対策(ログ監視、アクセス権限管理など)だけでなく、不正を許さない企業文化を醸成することが重要です。
従業員への定期的な情報セキュリティ教育やコンプライアンス研修を通じて、情報資産の重要性や不正行為の厳しさを徹底的に周知し、内部通報制度の整備と適切な運用を通じて、従業員が安心して不正を報告できる環境を構築することも不可欠です。
予防策と、万が一不正が発覚した際の迅速かつ適切な対応体制の両輪を強化することで、貴社の情報資産と信用を守り抜きましょう。
ご相談・お問い合わせ
会社でデータが消えてしまい困っている方、あるいは不正によるデータ消去が疑われ、その真相究明にお困りの方は、ぜひご相談ください。EASY Forensicsが、皆様の課題解決をサポートいたします。また、詳細な資料ダウンロードもご用意しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

