目次
  1. はじめに:なぜ今、パワハラの「証拠」が重要なのか?
    1. 曖昧な証言だけでは解決が難しい理由
    2. 企業が負うリスクと責任
      1. 法的責任
      2. 従業員の士気低下
      3. 人材流出
      4. 社会的信用の失墜
  2. パワハラの種類とデジタル証拠の関連性
    1. ①②身体的攻撃・精神的攻撃
      1. デジタル証拠の関連性
    2. ③人間関係からの切り離し
      1. デジタル証拠の関連性
    3. ④⑤過大な要求・過小な要求
      1. デジタル証拠の関連性
    4. ⑥個の侵害
      1. デジタル証拠の関連性
  3. パワハラ行為の「デジタル証拠」となるもの
    1. メール、チャットアプリ(Slack, Teamsなど)のやり取り
      1. 具体的な内容
      2. 日時と送信者
      3. 保存方法
    2. 録音・録画データ
      1. 録画データ
      2. 注意点
    3. PCのログ(アクセス履歴、作業時間など)
      1. アクセス履歴
      2. 作業時間・稼働ログ
      3. データ破壊の痕跡
    4. SNSの投稿
      1. 具体的な内容と日時
      2. 保存方法
    5. 勤怠データ
      1. 長時間労働の証拠
      2. 不自然な退勤・出勤記録
  4. デジタル証拠を適切に保全する手順
    1. データ改ざんを防ぐための注意点
      1. 直接編集しない
      2. タイムスタンプの保護
      3. ハッシュ値の取得
    2. スクリーンショットや写真の撮り方
      1. 全体を写す
      2. 日時を記録
      3. 複数枚撮る
      4. 動画で記録する
    3. 専門ツールでの保全のメリット
      1. 法的な有効性の確保
      2. 見えないデータの収集
      3. 効率的な収集と分析
  5. 集めたデジタル証拠の法的有効性
    1. 裁判や調停で認められるための条件
      1. 関連性
      2. 真正性
      3. 証明力
    2. 証拠の信頼性を高める方法
      1. 複数の証拠を組み合わせる
      2. 時系列に整理する
      3. 専門家の意見書
  6. EASY Forensicsがパワハラ調査をサポート
    1. パワハラPCの操作ログやデータ保全
      1. PC操作ログの収集と分析
      2. 関連データの保全
      3. キーワード検索とフィルタリング
  7. まとめ:デジタル証拠で公平な解決へ
    1. 社内窓口の整備と教育
    2. ご相談

はじめに:なぜ今、パワハラの「証拠」が重要なのか?

曖昧な証言だけでは解決が難しい理由

職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、被害者の精神的健康を損ない、企業の生産性を低下させ、組織全体の士気を著しく低下させる深刻な問題です。

しかし、パワハラは多くの場合、閉鎖的な空間や目撃者のいない状況で行われることが多く、また加害者がその事実を否定するため、「言った」「言わない」の水掛け論になりがちです。

被害者の証言だけでは、加害行為の事実や内容、継続性などを客観的に証明することが非常に困難であり、企業が適切な対応を取る上で大きな壁となります。

このような「曖昧な証言」だけでは、問題の根本的な解決が難しく、被害者の救済も遅れてしまうのが現実です。

企業が負うリスクと責任

2022年4月1日に全面施行された改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)により、企業にはパワハラ対策が義務付けられました。

これにより、パワハラを防止するための措置を講じること、そしてパワハラが発生した場合には、相談窓口の設置や迅速かつ適切な対応を取ることが、企業の法的責任となっています。

もし企業がこれらの義務を怠り、パワハラを放置したと判断された場合、以下のような甚大なリスクを負うことになります。

法的責任

被害者からの損害賠償請求(民事訴訟)、行政指導、企業のイメージ低下による事業活動への悪影響。

従業員の士気低下

職場の雰囲気が悪化し、従業員のエンゲージメントや生産性が低下します。

人材流出

優秀な従業員が離職し、人材確保が困難になります。

社会的信用の失墜

パワハラ問題が外部に漏れれば、企業のブランドイメージは大きく損なわれ、採用活動や取引にも悪影響を及ぼします。

これらのリスクを回避し、公平かつ迅速に問題を解決するためには、パワハラの事実を客観的に証明する「証拠」の収集が不可欠です。

パワハラの種類とデジタル証拠の関連性

厚生労働省の定義によれば、パワハラは「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」とされており、以下の6つの類型に分類されます。それぞれの類型において、デジタル証拠がどのように関連してくるかを見ていきましょう。

①②身体的攻撃・精神的攻撃

殴る、蹴るといった身体的攻撃や、脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言といった精神的攻撃がこれに該当します。

デジタル証拠の関連性

 精神的攻撃の場合、暴言を吐いたメールやチャットのやり取り、SNSでの誹謗中傷の投稿、暴言の録音データ、被害者が精神的に追い詰められて病院を受診した際の診断書(デジタルデータ化されたもの)などが証拠となり得ます。

身体的攻撃の場合も、暴行時の録画データや、その後に交わされた加害者からのメール・チャット、怪我の診断書などが証拠となる可能性があります。

③人間関係からの切り離し

隔離、無視、仲間外れなど、業務上必要な情報から意図的に遠ざけたり、職場内での人間関係から意図的に排除したりする行為です。

デジタル証拠の関連性

 業務連絡のメールやチャットから意図的に被害者を外している記録、会議招集メールに被害者だけが含まれていない証拠、部署内での情報共有ツールにおいて被害者だけアクセスが制限されているログなどが証拠となり得ます。

④⑤過大な要求・過小な要求

業務上明らかに不可能なノルマを課す、必要な知識や経験なしに不当な業務を強制する「過大な要求」、あるいは逆に、能力や経験とかけ離れた簡単な業務を命じる、仕事を与えない「過小な要求」が該当します。

デジタル証拠の関連性

過大なノルマが記載されたメールや業務指示書、非現実的な指示がチャットで送られてきた履歴、あるいは逆に、明らかに能力に見合わない業務を命じられた旨が記載されたメール、業務日報やPCの作業ログから被害者にほとんど業務が割り当てられていないことが証明できるデータなどが証拠となり得ます。

⑥個の侵害

プライベートなことに過度に立ち入る行為や、職場外で監視するなどの個人の尊厳を侵害する行為です。

デジタル証拠の関連性

プライベートな情報を詮索するメールやチャット、SNSへの不適切な投稿、勤務時間外に私的な連絡を執拗に行う履歴などが証拠となり得ます。GPS情報や位置情報を追跡するアプリが会社のPCやスマホにインストールされていた場合は、その記録も関連する可能性があります。

パワハラ行為の「デジタル証拠」となるもの

パワハラ問題解決の鍵となるのは、客観的で改ざんされていない「デジタル証拠」です。以下に示す様々なデジタルデータが、パワハラの事実を証明する上で強力な根拠となります。

メール、チャットアプリ(Slack, Teamsなど)のやり取り

職場で日常的に使われるメールやチャットアプリは、パワハラの証拠が最も残りやすいツールです。

具体的な内容

加害者からの暴言、侮辱、脅迫、不当な業務命令、無視、情報共有からの排除などが明確に記述されているメッセージは、強力な証拠となります。

日時と送信者

メッセージには送信日時と送信者が記録されているため、いつ、誰が、どのような内容のパワハラを行ったかを客観的に示すことができます。

保存方法

画面のスクリーンショットを撮るだけでなく、可能であればメッセージのやり取りをテキストデータとして保存したり、印刷して紙媒体で保管したりすることも重要です。

録音・録画データ

パワハラ行為が行われている現場を直接的に記録できる録音・録画データは、最も強力な証拠となり得ます。

録音データ加害者の暴言や威圧的な言動、侮辱などが明確に記録された音声データは、パワハラの事実を直接的に証明します。会議中や個別の面談時など、いつでも録音できるよう準備しておくことが重要です。ただし、ICレコーダーの電池切れや、録音中の予期せぬ中断に注意が必要です。

録画データ

監視カメラの映像や、スマートフォンなどで秘密裏に撮影された動画は、身体的攻撃や威圧的な態度、特定の場所での隔離などの状況を視覚的に証明できます。

注意点

録音・録画を行う際は、相手に無断で行うことが一般的ですが、違法ではありません。しかし、他人のプライバシーを不当に侵害しないよう、また、後で編集したと疑われないよう、データの完全性を保つことが重要です。

PCのログ(アクセス履歴、作業時間など)

業務で使用するPCの操作履歴は、パワハラの事実を間接的に裏付ける証拠となることがあります。

アクセス履歴

特定の共有ファイルやシステムへのアクセスが不当に制限されている、あるいは過大な業務を強制するために不自然な時間にPCにアクセスしているなどの履歴が記録されます。

作業時間・稼働ログ

過大な業務要求を裏付けるために、PCの稼働時間やアプリケーションの利用状況を示すログが証拠となる場合があります。これにより、不自然な長時間労働を強いられていることが客観的に証明できます。

データ破壊の痕跡

パワハラの一環としてデータが削除されたり改ざんされたりした場合、その痕跡がPCのログに残されていることがあります。

SNSの投稿

加害者がSNS上で被害者を誹謗中傷したり、不適切な内容を投稿したりした場合、その投稿はパワハラの直接的な証拠となります。

具体的な内容と日時

投稿の内容、投稿日時、投稿者、閲覧者(公開範囲)などを明確に記録します。

保存方法

スクリーンショットを撮るだけでなく、ウェブページの魚拓(Web魚拓など)を取得したり、URLを控えておくことも重要です。

勤怠データ

タイムカードや勤怠管理システムに記録されたデータも、パワハラの証拠となり得ます。

長時間労働の証拠

過大な業務要求による不自然な長時間労働や休日出勤の記録は、被害者の負担を客観的に示します。

不自然な退勤・出勤記録

パワハラによる精神的苦痛で、遅刻・早退・欠勤が増えた場合の記録などが証拠となることがあります。

デジタル証拠を適切に保全する手順

収集したデジタル証拠は、その「完全性」と「真正性」が保たれていなければ、法的な有効性が認められない可能性があります。以下の手順で慎重に保全しましょう。

データ改ざんを防ぐための注意点

デジタルデータは容易に改ざんできる特性を持つため、保全時の操作によって証拠の価値が損なわれないよう細心の注意が必要です。

直接編集しない

オリジナルのデータ(メール、チャット履歴、ファイルなど)を直接編集したり、上書き保存したりすることは絶対に避けてください。コピーを作成して、そのコピーを調査・分析に使用します。

タイムスタンプの保護

ファイルの作成日時、更新日時、最終アクセス日時などのタイムスタンプは重要な情報です。ファイルのコピーや移動などの操作を行う際に、タイムスタンプが変更されないよう注意が必要です。専用のツールを使用するか、フォレンジック専門家に依頼することを検討しましょう。

ハッシュ値の取得

データの完全性を証明するために、ハッシュ値(MD5やSHA-256など)を取得し、記録します。これはデータの「指紋」のようなもので、データがわずかでも改ざんされるとハッシュ値は変化するため、改ざんの有無を科学的に証明できます。

スクリーンショットや写真の撮り方

画面上の情報や紙媒体の証拠をデジタルデータとして保全する際のポイントです。

全体を写す

スクリーンショットや写真を撮る際は、画面全体や書類全体が写るようにします。ブラウザの場合はURLバーやシステム時計なども含めて写し、信憑性を高めます。

日時を記録

スクリーンショットには、撮影日時がわかるようにPCのシステム時計を含めて撮影することが望ましいです。写真の場合も、撮影日時が自動で記録される設定にしておきましょう。

複数枚撮る

一つの証拠に対して、異なる角度や範囲で複数枚のスクリーンショットや写真を撮ることで、後から不審な点がないか確認しやすくなります。

動画で記録する

特にPC画面上での操作や、変化するチャット画面などを記録する場合は、静止画だけでなく、動画として記録することも有効です。

専門ツールでの保全のメリット

自力での証拠保全には限界があり、誤った操作で証拠の価値を損なうリスクがあります。

法的な有効性の確保

デジタルフォレンジックツールや専門家は、法的有効性を持つ証拠保全の手順(Chain of Custodyなど)に則って作業を行います。これにより、収集した証拠が裁判などで認められやすくなります。

見えないデータの収集

削除されたデータや、隠されたファイル、一時ファイルなど、通常の操作ではアクセスできない情報も収集・解析できます。

効率的な収集と分析

膨大なデジタルデータの中から、必要な情報を効率的に抽出し、分析する能力に優れています。

集めたデジタル証拠の法的有効性

苦労して集めたデジタル証拠が、裁判や調停で認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。

裁判や調停で認められるための条件

デジタル証拠が法廷で有効とされるためには、主に以下の3つの条件が重要です。

関連性

証拠が、パワハラの事実(加害行為の有無、内容、継続性など)と直接的に関連していること。無関係なデータは証拠として採用されません。

真正性

証拠が、改ざんや捏造されていない「本物」であること。これが最も重要な条件であり、ハッシュ値の取得や、証拠保全のプロセスの記録(Chain of Custody)が不可欠となります。

証明力

証拠が、パワハラの事実をどれだけ強力に裏付けられるかという「証明力」が高いこと。例えば、暴言の録音データは非常に証明力が高いですが、間接的な証拠(「〇〇さんが困っていた」というチャットなど)は他の証拠と組み合わせて初めて証明力が高まります。

証拠の信頼性を高める方法

裁判所や調停委員は、提出された証拠の信頼性を厳しく評価します。

複数の証拠を組み合わせる

一つのデジタル証拠だけでなく、メール、チャット、録音、PCログ、診断書など、複数の種類の証拠を組み合わせることで、証拠全体の信頼性が飛躍的に高まります。例えば、暴言の録音データと、その後に被害者が受け取った侮辱的な内容のメール、さらに精神科医の診断書が揃えば、パワハラの事実を強力に証明できます。

時系列に整理する

収集した証拠を時系列で整理し、どのようなパワハラ行為が、いつ、どのように行われたかを分かりやすく示すことで、事案の全体像が明確になり、説得力が増します。

専門家の意見書

デジタルフォレンジック専門家による調査報告書や、精神科医による診断書、弁護士の意見書など、専門家による客観的な評価を添えることで、証拠の信頼性をさらに高めることができます。

EASY Forensicsがパワハラ調査をサポート

中小企業において、パワハラ問題の調査を専門的に行う人材やツールが不足している場合でも、「EASY Forensics」は、デジタル証拠の収集と分析をサポートし、問題解決に貢献します。

パワハラPCの操作ログやデータ保全

EASY Forensicsは、パワハラの加害者や被害者が使用していたPCから、関連するデジタルデータを効率的かつ法的に有効な形で収集・保全する機能を提供します。

PC操作ログの収集と分析

パワハラの時間帯におけるPCの操作ログ(アプリケーションの起動・終了、ウェブサイトの閲覧履歴、ファイル操作履歴など)を詳細に収集・分析することで、不審な行動パターンや業務外利用の有無を確認できます。例えば、被害者を無視している期間に、加害者が個人的なサイトを閲覧していた、あるいは通常業務では必要のない特定のファイルに頻繁にアクセスしていたといった痕跡を発見できる可能性があります。

関連データの保全

メール、チャット履歴、作成された文書ファイル、削除されたファイルの痕跡など、パワハラに関連する可能性のあるデジタルデータを改ざんのリスクなく保全します。これにより、調査段階での証拠の散逸を防ぎ、後に必要となる詳細な分析や法的措置に備えることができます。

キーワード検索とフィルタリング

大量のデータの中から、パワハラに関連する特定のキーワード(例:罵倒語、侮辱的な表現、被害者の氏名など)を含む情報を効率的に検索し、フィルタリングすることで、必要な証拠を迅速に抽出できます。

まとめ:デジタル証拠で公平な解決へ

社内窓口の整備と教育

パワハラ問題の公平な解決には、被害者が安心して相談できる社内窓口の整備と、従業員一人ひとりの意識を高める継続的な教育が不可欠です。社内規定にパワハラの定義、相談窓口、対応手順を明確に定め、従業員に周知徹底することで、相談しやすい環境を作りましょう。

また、定期的な研修を通じて、パワハラが企業に与える影響や、適切なコミュニケーションの取り方について従業員の理解を深めることが、パワハラを未然に防ぎ、健全な職場環境を維持する上で最も重要な基盤となります。

ご相談

パワハラ問題に直面し、デジタル証拠の収集や調査方法にお困りの経営者の皆様、どうぞご安心ください。本記事で解説したデジタル証拠の集め方や法的有効性について、さらに詳しい情報が必要な方、またはEASY Forensicsの導入をご検討中の方は、ぜひご相談ください。専門のスタッフが、貴社の状況に合わせた最適なサポートを提供し、公平な問題解決を支援いたします。

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